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Call My Name 4

突然の告白に僕はフォークを落としそうになった。



Call My Name 4






「そんなに驚かないで、って無理か。」
そう言って彼女は空しく笑った。
「驚いた。けど、引きはしないから続けて?」
「昨日ね、本当に電車に乗れなかったの。
 というか、駅にたどり着けなかったの。
 うちから駅って歩いて10分くらいなんだけど
 途中で大通りを外れて細い道を通ると近道でね
 いつもみたいにその道に入ったら、何も分からなくなっちゃって…」
彼女はそこで言葉に詰まった。
オムライスをすくったスプーンを口に運ぶでもなくただ見つめていた。
「何もって?」
「うん、ほんと何もかも。
 そこがどこなのか、自分がどこに行こうとしてるのか、全部。」
彼女が涙声になる。
「それで1時間くらいかな?
 何も分からないままうろうろ歩いちゃって
 帰る道も、帰れる家があることも全部忘れちゃって
 どうすればいいか分からなくて大通りの歩道の隅に座ってたら
 車で通りかかったお母さんに拾われたの。」
「ああ、それでお母さんも気が動転してたんだね。」
20代前半の娘が突然、見当識を失って道に蹲っていたのだ
母親はそれは驚いたことだろう、
今ここでこの事後報告を聞いている僕の何百倍も。

昨日のことを話す彼女も、それを聞く僕も
食事の手は自然と止まっていた。
妙に喉が渇き、傍らの背の低いグラスに注がれたミネラルウォーターだけが減っていく。

「病院には行ったの?」
「ううん、行ってない。
 お母さんは何か思いつめるようなことがあったんだろうって。
 気にしすぎるとよくないよって言ってたから。」
「でも、今日は大丈夫だったんだよね?」
「うん、ちゃんと来れた。
 お母さんに駅まで送ってもらったんだけどね、
 電車に乗ってからも大丈夫なようにちゃんとメモ、持ってきた。」
彼女はそう言って隣の椅子にかけていたコートのポケットから
手書きの折りたたまれたメモを取りだした。
キャラクターで縁取られた中央に、きれいな文字で
「優一くんと待ち合わせ 11:30」
と書かれていた。そしてその下には電車から待ち合わせ場所への
簡単な地図が書かれていた。

よく見るとそのメモには2枚目があった。
不思議に思った僕が手を伸ばすと、彼女は恥ずかしそうに紙を入れ替えた。
「こまったとき おかあさんにでんわ 090-XXXX-XXXX」
「ポケットの 白いけいたいでんわ」
彼女のとは違う文字でそう書いてあった。
「お母さんがね、これも持っていけって、書いてくれた…」
彼女は両目にいっぱい涙を溜めている。
母親の愛情を、感じたのだろうか。

「ひらがなばっかでしょ、子供じゃないっつーの…」

そう言って笑う彼女の右目からはポロリと一粒涙がこぼれていた。
それを恥ずかしそうに拭う彼女を見て
透明でキラキラして、この世で一番きれいなものは涙なんじゃないかって
僕は見当違いなことを考えていた。
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  1. 2010/03/04(木) 01:52:49|
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