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星の玉子   (改訂版)

それはある冷えた三月の終わり。


『 星の玉子 』



深夜、私は自室から続くベランダに立ち空を眺めて居た。
それは今日もいつもと何も変わらず
下方の人口の明かりを反射させる薄闇から真っ暗闇へと
グラデーションがかった夜空がただ広がっていた。


毎日毎日こうして見上げていても
今日も何も変わらない真っ暗な空が広がってるだけだ。

しかし、私は今日ある異変に気づいた。




満月のちょうど真下、雲が途切れたその隙間に
街明かりにも負けないほど発光した
銀色の点が浮かんでいた。
右手の人差し指と親指で輪を作りその点を輪の中に入れる。
あれ、何の星だろう。
見慣れない強い光に私はふと疑問に思い
そうして少しの間、その点を眺めていた。

すると、その点は指で作った輪の中心で
どんどん大きくなっていく。
私はその点から目が離せなくなり
どんどん大きくなっていく発光体をただただ見つめていた。

発光体を見つけてから何分が過ぎただろう。
初めは周りの星とほとんど同じくらいに見えていた点は
どんどん大きさを増し次第に輪郭を表し始めた。

その輪郭を見たとたん私はハッと我に返った。
まさか、そんなはずはない。
だけど、どう見てもそれは人だった。

人が空から降ってくる!


だんだんと近づいてくるその人は
気がつけば私から5メートル程の距離まで降下していた。
よく見ると、銀色の光を全身に纏った男の子だった。
髪は少し長めの銀髪で、肌は白く透き通っていた。
この距離でもわかるくらい綺麗な顔をしている。
大きな瞳は血のように真っ赤だった。

その男の子は私の目前で降下を止め、宙に浮いたままこちらに手を差し伸べた。
私はその手をとろうと、手を差し出した。





ピピピピ ピピピピ ピピピピ ピピピピ

細く開いた瞼の隙間から、朝のキラキラした太陽が流れ込んできた。
なんだ、夢だったのか。綺麗な人だったな。
妙にリアルな夢の突然の幕切れに
目が覚めるとなんだか呆気ないような切ない気持ちになった。

私は、目が覚めると、大抵すぐに夢を忘れてしまう。
でもこの夢だけは特別だった。
忘れようとしても忘れられなかった。
その日から、その夢はずっと続いたからだ。


次の夜、私はいつもどおり眠りに落ちた。
ベッドに入る数分前、お風呂上がりの火照った体で
ベランダに出て空を眺めてみたが
やはりあの少年はそこには存在してはいなかった。


眠りに落ちてからほどなくしてその夢は始まった。
昨日見た夢の終わり、男の子がこちらに手を差し出すシーンから。

私は24時間越しにやっとその手に触れることが出来た。
暖かくて優しい、華奢で大きな手だった。
私は少年の手を取った途端、フワリと体が浮かぶ感覚に襲われた。
手を繋いだまま空に浮いたのだ。
不思議と恐怖は感じなかった。
夢だから怖くないのかな、変に冷静に考えていた。
ただ見詰め合って、ベランダから3メートルほど
斜めに飛び立った空で冬の夜の冷たい風に吹かれていた。

そのとき男の子が口を開いた。
無音の静寂の中、微かに息を吸う音がして
男の子の口が何か言葉を発している。

しかしその言葉だけ、私の耳には届かなかった。



今度はそこで目が覚めた。
寝ぼけ眼の私の耳に雨音が入ってくる。その日は雨だった。
憂鬱な気分で身支度を済ませ、学校に向かった。
毎朝、電車は満員ラッシュで晴れでも少し憂鬱だというのに
雨の日なんて傘を持っているだけで、私は3割増しで憂鬱だった。

日常は夜空と同じように、ただ毎日同じ情景の繰り返しだった。
目が覚めると朝食を取り、顔を洗って歯を磨く。
自室に戻り髪を整え軽く化粧をする。
それが終わるとカッターシャツとグレーのスカートをはき
赤いリボンを付けた後に紺色のハイソックスをはく。
そしてカバンを中身を確認し紺色のブレザーを着て家を出る。
駅まで5分ほど歩き、定期券をカバンから取り出して改札をくぐり
人がパンパンに詰まった電車に自身も乗り込むのだ。
30分ほど電車に揺られ、学校の最寄り駅に電車は停車する。
そこから学校までは歩いて15分程度。
学校へ着き授業を受け友達と言葉を交わしてお昼ご飯を取る。
午後からはまた同じように授業を受け
ホームルームが終われば友達と声を掛け合って帰途に就く。
朝と同じ道を反対向きに引き返していく。
今日も特にどこへ寄るでもなく私は早々に友達と別れ帰宅した。



その日の夜は、昨日男の子が言いかけていた言葉を
気にかけながら眠りに付いた。


夢はまた前日の続きから始まった。
手を取り空へ浮かびながら男の子が口を開くシーンからである。
今度は微かに息を吸う音がして声色も聞こえてきた。

「きみはしあわせ?」

24時間越しに聞こえた少年の声は中性的な高さだった。
そしてただ、やさしかった。

夢の中の私は何を答えるでも無く、唯、男の子を見つめていた。
男の子はまた、口を開く。

「きみは、いま、しあわせ?」


その言葉を聞いた途端、ハッキリと目が覚めた。
まるで図星でも突かれたように冷や汗をかいている。
時計を見ると夜中の二時を過ぎたところだった。
私、しあわせなんだろうか。その考えだけが頭を支配していた。


私は、県内の高校に通う学生だ。
友達は、いる。両親も健在で金銭的な不自由もない。
特に抱えている問題もない、何不自由なく生きてる。

でも、何か、足りない。
そんな思いが日常的に心の中に靄のように立ち込めていた。
自分でも何が足りないかわからない。
考えれば考えるほど分からなくなって
何かの思い違いか考えすぎだろうという気持ちになる。

でも、きっと幸せじゃ、無い。



その夜からぱたりと、あの夢を見られなくなった。



私は今、幸せなんだろうか。
その考えばかりが頭を巡った。

何か、足りない。 何が、足りない?

学校は楽しい。友達もいるし家族もいる。
勉強もまあまあできる。
好きな音楽やキャラクターの話をしてそれなりに生活は充実してる。

でも、何か足りない。 何が、足りない?

昼も夜も、同じことを繰り返し、何度も考えた。
私に足りないものは何だ?
あの夢を見られなくなってからというもの
その言葉しか頭に浮かばなくなっていた。
考えても考えても、答えは一向に見つからない。



一週間が過ぎた。
私は、未だあの夢の続きを見ていない。




その日は、いきなりクラスでも仲の良い友達から手紙を貰った。
可愛いキャラクターが描かれたピンク色の封筒に便箋が入っていた。
普段手紙なんて書かない子なのに、一体何なんだろう。
私は疑問符を並べながら、手紙を開いた。

ピンク色の便箋に書かれた稚拙な文字が
胸のどこか、柔らかな場所に刺さった。


私、もう、疲れた。
これ以上、一緒にいられないよ。
私たちといても楽しくなさそうだし。
一緒にいる意味ないと思う。



私が一体何をした?

朝は一緒に登校していたし、お昼ご飯も一緒に食べた。

私が一体何をした?

何気ない話もたくさんしたし、たくさん一緒に笑った。



――――笑った? 私、笑ってただろうか。


あの子と居るとき、本当に楽しかった?
みんなと居るとき、本当に笑ってた?
唯、話をあわせてただけじゃなかった?
あれは作り笑顔じゃなかった?


――――あの子は、本当に、友達だっただろうか。


私はふいに頭をもたげ続けた問題の解決の糸口をつかむことになった。
私、本当は幸せじゃなかったよ。
友達なんて所詮形だけ、そう思って誰も信じてなかった。
誰も信じようとしなかった・・・。

一緒に笑っていても楽しいふりをしていた。
そうだよねって言葉の裏には気持ちなんてなかった。


なんだ、私、幸せじゃないじゃん。


何日も考えていた答えがこんな形で出るとは思わなかった。
あの夢が私に教えてくれた真実は、何だかちょっと重苦しかった。


その夜、今までの自分自身の行動に嫌気がさして
泣きはらした目をした私は眠りについた。
明日学校行きたくないなあ。そんなことを考えていた。


最後にあの夢を見た日から12日、私はあの夢の続きを見た。


「きみは、いま、しあわせ?」

あの日と同じ角度で、同じ温度で、同じ声が聞こえる。
ただ見つめあう私はどんな表情をしているのだろうか。

「幸せじゃ、ないよ。」

夢の中の私はそう答えていた。
微かに声が震えていた。
私の答えを聞くと少年は途端に憐れむような顔をした。

「しあわせじゃ、ないの?」

少しの沈黙が二人の間に流れる。
風も止み、下方に広がる街明かりさえも消えてしまった
完璧な暗闇と静寂に包まれる。

「うん、淋しいよ。 幸せなんかじゃ、ないよ。」

私はまた震えた声で少年の問いに答えていた。
さみしい、さみしい、さみしい。私ひとりぼっちだもん。

「そっか。残念だね。」

憐れむような表情をしていた少年は、なぜか唐突に
真っ赤な瞳から涙を落とした。
その涙はキラキラと輝いて男の子の真っ白な肌を伝わり
顎のあたりまで流れ落ちるとどこかへ消えていった。
真っ白な肌に涙のあとがついていた。

「なんで君が、泣くの?」
「君が泣かないからさ」
「私が、泣かないから?」
「そう。君は、今きっと泣きたくて仕方ない。」
「泣きたくなんて、ないよ」
「嘘は吐かなくていいよ。僕には、わかる。」
「泣きたく、なんて、ない、よ…。」

いつの間にか私もポロポロと涙を流していた。
涙の温度が妙に暖かくて頬にリアルな感覚を覚えた。

「ほら、泣きたいんじゃないか。」

少年はきれいな顔をほころばせて笑みをくれる。
やさしい笑顔。慈しむような頬笑み。
男の子は、呆れ顔ひとつせずにただ微笑みながら見守ってくれた。
それから私は嗚咽を上げて泣きじゃくってしまった。

泣きじゃくる私の視界がふいに奪われ温かな感触を感じる。
ふと顔をあげるとそこには少年の首筋があって
私は抱きしめられていることに気付く。冬の夜の匂いがした。


「ねえ、きっと、もうすぐ元気になれるよ」

少年は私を抱きしめ、手のひらで背中を撫でながら
やさしい声で囁いた。
私も嗚咽混じりに返答する。

「なんでそんな事わかるの?」
「今いっぱい泣いたから」
「そうだね、いっぱい泣いたものね。」


「君にはやっぱり、笑顔が似合うよ。」

顔を見ることはかなわないが、少年の声から
彼が微かに笑っているのを察することが出来た。

「なんで? なんでそんな事言ってくれるの?」
「いつも君を見てたから」
「見てた・・・?」
「いつも見てた。君がいつもベランダに立って空を見上げてるの。」
「見られてたんだ・・・。毎晩ベランダにいるの・・・。」

でも・・・、どこから?
ここは地上18階の高層マンションである。
地上からは到底見上げることは出来ないし近くにビルやマンションはない。
人影があれば、気付くはずだ。
その疑問を口にしようとしたが、少年に遮られ言葉にならなかった。
抱きしめられていた腕が放され、手をつかまれたまま見つめあう形になる。


「これからもずっと見てる。君の笑顔も泣き顔も、全部、全部。」


少年はそう言って私の右手を両手で包みこんだ。
そして微笑んだかと思うと
銀色の霧になって、空に溶け、消えてしまった。

いつの間にか街の明かりも夜の風も戻っていた。
そして私は空に浮いていたはずなのに、ベランダに立っていた。
見回しても見上げても少年の姿はなかった。





私はここで目を覚ました。
いつかと同じキラキラした太陽が窓から差し込んでいた。
もうすぐ春になるのだ、日差しの温度が上がっている。
これから新しい毎日が始まる、そんな予感がした。
いい朝だな、そう思うとふいに笑ってしまった。

起き上がろうとしたとき、私は右手の中に異物感を感じた。
あれ、私何か持ってたっけ?
そう不思議に思って握りしめた手のひらを開いてみると
そこには白い半透明な、兎の硝子細工が握られていた。
やっぱり目は真っ赤だった。

なんだ、そうだったのか。
ちょっと可笑しくなって笑った。
笑顔が似合うと言ってくれたあの男の子を思い出しながら。
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  1. 2010/02/21(日) 23:12:42|
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