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幸福の構成図

失われることのない幸福の形

そこにあるのは唯一
絶対的な美しさを孕んだ

「 幸福の構成図 」





あなたと出会ってもう何年になるんだろう。
毎日を過ごす中でそんなことを改めて考えてみた。


もう、あれから12年か。
通りで私も若くないわけだ。
もう30を過ぎてしまったんだから。

あの頃私は20歳だった。
ただ毎日が灰色で未来に対しては不安しか持ってなかった。
手の平に握りしめた可能性をひとつひとつ零しながら
ただそれを認めたくないと必死に手を開かなかった。

そうやっているうちに、何となく就職も決まり
いつの間にか大学を卒業してたんだよね。
大きな流れに巻き込まれて
自分の意思とは全く関係のないところで
どんどん進んでるみたいだった。

でもあなたは私の手を離さなかったよね。
どんな時も一緒だよって約束のおかげで
果てのない闇の中でも、降り止まない雨の中でも
私は笑って前を向いていられた。

あの頃の私たちは
自分には誇れるものなんてない
って二人ともが思ってた。
今だから笑えるけどあの頃、本当に人生のどん底に立った気分だった。

結局何とか乗り切って4年が過ぎた頃かな、
私は24歳で初めての結婚式をあげた。
あなたは2回目だったよね。
あの頃の私は、もっと早く生まれたかったって
口癖のように繰り返してた。
そうすれば私が初めてになれたのにって。


でもそんな劣等感は、夫婦になって消えていった。
既婚者を奪い取ったという負い目も幸せな生活に霞んでいった。
子供も授かって何とか育児にも奮闘したんだよ。
ずっとこの幸せが続けばいいのにって心の底から思ってた。


今でもこのダイニングに座ると思い出すの。
結婚したての頃、慣れない料理と格闘して
見た目も味もイマイチな料理をあなたに出したよね。
文句も言わずに食べてさ…。
最後の最後にちょっとしょっぱいなって
冷や汗いっぱいの顔で笑ってくれたよね。
後で少し食べてみたら考えられないほど塩辛かった。
無理して全部食べることなんかなかったのに。

私が気に入って買ったテーブルは天板がガラスで
汚れないようにってあなたは
ランチョンマットを買ってきてくれたよね。
冴えないチェックでさ、なんでわざわざ
この柄にしたの?って毒づいた私に怒ったよね。


息子を寝かしつけた後、こっそり二人でホットココア飲んだね。
あなたは甘党で、砂糖入れすぎよって私毎回言ってた。


12年前、こんな未来が来るなんて思ってもなかった。
きっと毎日はいつまでも続いていくはずだって
私一週間前ですらそう思ってたよ。



7日前の夕方4時25分。
この子を幼稚園に迎えに行った帰り道
あなたの携帯から着信があった。

今から市民病院に来て欲しい。
脳外科だから間違わないようにね。

受話口からはあなたの優しい声が聞こえてたんだ。
いつも通りの声でいつもみたいな口調で
現実から遠く離れた病院に呼び出された。

脳外科?
仕事で何かあったのかな
ってそんな不安だけが胸で疼いてた。


私はとにかく息子をつれて病院に急いだ。
病院につくと待合室にあなたはいたよね。
大事な話があるんだって表情ひとつ変えずに囁いた。




俺、もう長くないみたいなんだ


脳腫瘍だって
今体に不調が出てないのが不思議なくらいらしい
もうあまりにも大きくなりすぎててな…


手術…しても…ダメらしいんだわ



…ごめ…んな




こいつの成長も…もう…
見届けてやれないしさ
お前の今後も…
支えて…やれないらしいんだよ…
お前…寂しがりなのにな…


あなたは途切れ途切れに言葉を発し
俯いた顔からは見たことのない涙が
ぽろぽろと零れてたよ。

私はどうすることも出来ずに
立ち尽くし涙を流すあなたの肩を
ずっと抱いてた。

私はきっとあの日のあなたの姿を一生忘れることは
出来ないと思うんだ。
あんなに一瞬で奈落へと落とされ
神様を憎んだ日はないからね。


脳外科の先生が言うには余命は長くても一年らしく
すぐにでも入院を、と薦められた。
でもあなたはどうせなら不調もないし助からないのなら
せめて好きに生かして欲しいと望んだね。

健康診断なんて甘く見てたけど運命変わることもあるんだな
なんてあの夜、苦笑いしたよね。
それから二人でたくさん泣いた。
たくさん笑うために、たくさん泣いた。



庭からは今、あなたと息子の幸せそうな声がするよ。
それを聞いて、きっとこれは幸福の構成図なんだと思った。
揺らぐことのない幸福…


たった一年でもいいじゃない。
一生分の一年にするんだから。
私、幸せよ。
あなたと出会えて本当に良かった。
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  1. 2008/11/10(月) 23:30:20|
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