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ある愛の話

ずっと大切にするから
世界でいちばん大事にするから



 『 ある愛の話 』




俺と彼女が出会ったのは、珍しく雨の少ない梅雨のことだった。
よく晴れた空の下で真っ白なTシャツにブルージーンズをはいた彼女は
どこか他の人とは違う茶色い髪を風に揺らしながら
雑踏の中、足早に交差点をすれ違う人にまぎれて
歩道にうずくまっていた。

声を掛けろと本能が俺に言った気がしたのは
彼女が泣いていたからかもしれない。

大丈夫ですか、と声を掛けた。
「大丈夫です、すいません。気になさらないでください。」と
消え入りそうな声でその人は答えた。
彼女は突然の事態に驚いて顔を上げたけど
涙で化粧のグチャグチャになった顔は、大層無様な事に気付いたのか
すぐに目を伏せて両手で顔を覆ってしまった。
そして下手糞に作り笑いを浮かべて
「こんなところで泣いてしまうなんて」と自嘲した。

幸いそこは俺の家の近所だったから
泣いてる彼女を立たせて家までつれて帰った。
「大丈夫です、大丈夫ですから」と拒むその人の腕を
無理やり掴んで離さなかったのは今思えば、なんでだったのか分からない。

そんな無理やりでメチャクチャな出会いで、俺達は出会った。
泣いていたから放っておけなかった、ただそれだけだった。
でも何でかあの時、俺は確信していた。この人は天使だ、と。

家に連れ帰るとインスタントですいません、と言ってコーヒーを淹れ
「構わないでください、本当ごめんなさい」と遠慮がちに
彼女はマグカップを受け取った。

何かとてつもなくショックな事があったんだろうと思ったけど
俺は何も訊かなかった。言いたくないことだって人にはあるだろうから。

後になってその人から聞いた話だが
あの時淹れたコーヒーの、砂糖の量とミルクの量が調度だったらしい。
他の人はみんな、こんな調度には入れてくれないよ、と笑ってた。
それで運命を感じたって演技みたいに真剣な顔で言ってた。

コーヒーを飲み終わる頃には、涙も鼻水も止まって
彼女は申し訳無さそうに大量に使ったティッシュをゴミ箱に捨てた。
申し訳無さそうに、すいません、と何度も謝っていた。
いいですよ、調度時間も空いてましたからと俺は笑った。
すると釣られてその人も笑った。初めて見た笑顔だった。

それから少しして俺達は付き合うことになった。
初めは沸騰したお湯がなかなか冷めないようにお互い温度の高い恋だった。
だがもう少し時が経つとその温度はだんだんと下がり始め
たまにケンカもするようになった。
でもいつも最後にはお互い笑って仲直りが出来た。
他人から見れば幸せな恋愛だったんだと思う。

お互い仕事の都合がつかなくて、
あまり旅行したり出掛けたりは出来なかったけど
一緒にいるだけで楽しかった。落ち着けたし、そこが自分の居場所だった。

しばらくして指輪を買った。ペアリングだった。
ペアリングなんて買ったことないよって笑う彼女が妙に幸せそうだった。
俺はというと数年前に付き合ってた彼女に貰った、
カルティエのラブリングを無くしたことを久しぶりに思い出したりした。
以前の彼女のことなんて思い出すこともないくらいの速度で
その人との時間は過ぎ去っていた。
幸せだと心から思った。

ある日、彼女とケンカをした。
つまらないことで言い争いになって彼女の方が根負けしてしまった。
ベッドで背を向けて寝てしまった彼女は次の朝起きると
俺の指輪を一生懸命外そうとしていた。
拳を握って寝ていた俺からは指輪は外れなかったらしく
その彼女の無理やりな動作に俺は目を覚ましたようだった。
目をあけると同時に「ちょっとパーしてみ、パー。」と
パジャマで寝起き姿の彼女にいわれた。
言われるがままに俺が手を開いた隙をついて
彼女は俺の左手から指輪を抜き取った。

そして、それを、食べた。

ビックリした。
「コラ、誰が外していいなんて言ったんよ」と言って
彼女の頬を掴んだけど彼女は一向に口をあけようとはしない。
もごもごしていた。飲み込むつもりなのかと思った。
「飲み込んだらヤバイって…、救急車呼ぶよ」と俺が言うと
彼女はその言葉にビックリしたのか口を開いた。
そして舌をちょっと出した。
その先には見慣れた指輪が乗っかっていた。
「もう…、ヨダレいっぱいついてるし…」と言って
彼女の口から指輪を取ってティッシュで拭いた。

またそれを左手に戻すと、ちょっと濡れてた。
内側を拭き忘れたらしかった。クソッ。
俺の嫌そうな顔を見て彼女は笑った。
そんな朝のひと時を過ごして、仲直りをした。

そんな風に時間は流れてもう三年になる。
数え切れないほどケンカもして、
数え切れないほど彼女を泣かせたけど、それ以上に一緒に笑った。


俺は今、タキシードが死ぬほど似合わないような気がする。
式場の人がドアをノックして入ってきた。
「花嫁様のご仕度が整いましたよ」と笑顔で話している。
見に行ってもいいですか、と訪ねると彼女がいる部屋まで連れ立ってくれた。

ドアを開けると椅子に座っていたのは
見慣れない真っ白なドレスを着た彼女だった。
いつも俺がセットしていた髪も、今日はプロにセットされて
キレイに飾られていた。「髪伸びたでしょ」と彼女は笑う。
出会ったときなんて肩にもつかなかったくせに。


しばらく呆然と見とれていると彼女が神妙な顔で言った。
「昔ね、付き合いだした頃、結婚式に話すわって私が言ったの覚えてる?」

付き合いだして二ヶ月頃の話だった。
そういえばあの日は珍しく彼女がこれ以上ないくらい凹んでて
それを一生懸命なだめる俺に、彼女が
「私一つ思ったことがあるの、だけどこれは結婚式に話すから」と
何度問い詰めても答えてくれなかったことがあった。
たまに気にしてはいたものの、一年を過ぎた頃から俺は気にしなくなっていた。

「ああ、あれ結局なんだったの?」
「あのね、ずっと前、私が凹んでたとき、一生懸命なだめてくれたじゃん?」
「うん、覚えてるよ。ずっと教えてくれなかったことでしょ?」
「そうそう。それ。」
「早く言いなよ。」
「もう…、恥ずかしくなってきたじゃん…。」
「お前まだ言わないつもりかよ!」
「ちょ、ちょっと待って、ちょっと待ってよ、心の準備がいんのよ」

彼女が部屋の角を見つめてしばらく間を置いた。

「あのね、あの日ね、なだめてくれたとき、本当に心から思ったことがあるの」
「だから、なんだよ?」
「あのね、あたし、本当に生まれてきて良かったって…、思ったの」

俺は驚いた。そんなこと三年も隠してきたのかよ。

「本当にね、思ったんだよ、あなたに出会えて、本当に良かったって、
 そのために私は生まれて来たんだなって…」

彼女はそこまで言うと、フイとそっぽを向いてしまった。
泣きそうになると顔を背ける癖。

でも調度良かった。
俺も何でだか涙が溢れて止まらなかったから。
やっぱり鼻水も出て、俺は鼻をすすった。

それが聞こえたのか彼女は驚いたようにこっちを向いて
「泣いてるの?!」と言った。
そういえば今まで泣き顔なんて見せたこと無かったんだった。

振り向いた彼女も、そうとう泣いていた。
「お前そんなに泣いたら化粧またグチャグチャになっちゃうよ」と
俺は笑ったけど、一向に涙は止まらなくて
「あなたもそんなに泣いたら髪型グチャグチャになっちゃうよ」と
彼女も笑う。バカなカップル。
こんなにめでたい日に、二人して号泣してるなんて。

「俺もな、ずっと結婚式に言おうと思ってた事があるんだよ」
「え、な、なに?」
「あー、これ恥ずかしいな。」
「またそうやって、はぐらかすー、早く言ってよ。」
「あのな、お前のことさ、これからも一生幸せにするから。
 世界で一番幸せにするから。」

彼女は「バカぁー…」と言ってまた一層泣き出した。
シルクの手袋をした腕で抱きしめられる。

俺が世界で一番大切な人。
これからもずっとずっと、世界で一番大事な人。
その腕の細さとか、強さとか、そんなものが大好きなんだよ。バカ。
いつも俺のことバカバカ言いやがって。
天然でどんくさくて、俺が居ないと何も出来ないくせに。




ずっと大切にするから。
世界でいちばん大事にするから。
これからもずっと一緒に生きてこうな。


あー、はずかし。
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  1. 2006/09/03(日) 22:54:15|
  2. Novel|
  3. トラックバック:0|
  4. コメント:1

コメント

にゃんこが愛は話

にゃんこが愛は話する?
  1. 2006/09/10(日) 14:10:29 |
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