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扉を開け

だってアイツラは、俺なんかよりだんぜん頭が良いから


 『 扉を開け 』


寒かった冬も終わり、季節は春になろうとしていた。
俺は長かった高校二年の学校生活を終えて、今は春休み真っ最中。
もう受験生はすぐそこに迫っているてのに、
俺はこの部屋に根でも張ってしまったかのように、引き篭もっていた。
いや、たまには友達に誘われて付き合いで買い物とかもするんだ。
でもこの季節はなんだか、体中に、
春に追いやられた冷たい北風が一杯に溜まったような、そんな気分になる。





一日三食は親がきっちりと確実に与えてくれる。それに加えて快適な空気調整機。
白い、座り心地の良いソファーに調度良い高さのガラステーブル。
そしてそこに乗った小さな電子の箱。
何でも、この箱が秘める可能性は無限大らしい。
具体的にやりたい事を自力で見つけられれば、それを達成する手段として
この箱は何でもしてくれるんだそうだ。 便利な世の中になったもんだよ。
知りたいと思えば、それがどんなに教育に良くない情報でも手に入るし
何かを発言したいと思えば、それに見合った場は無数に用意されている。
それに、指一本だけを使って箱の中で商品を選べば、
次の日、名前も知らない配達員が玄関先まで届けてくれる。
俺はこの部屋から出なくても十分な生活が出来るような気がしていた。


指先で流す画面の中に捕らえる文字は、
インターネットの速報ニュースに、羞恥心を忘れたような芸能人の話題。
妄想、現実、妄想、現実、妄想、妄想、現実、妄想。
マンネリ化した現状は、どこの世界でも一緒なんだな。

顕著な進歩を見せない非現実世界は、
いつの間にか小学生や中学生の溜り場になっていた。
近頃のガキは夜のコンビニ前なんかじゃなく、
大型の匿名掲示板や、完全密室系チャットルームに溜まってる。
暴力を振るうことは無い。ガキが交わすのは尖った文字で組み立てられた会話。
自分が傷付けられた時は、そこはかとなくムカツクのに
傷付けた本人は傷付いた被害者の顔を見ないから痛みや実感は無い。
こんなだから犯罪は低年齢化を進めるんだと、俺は思うけどな。


インターネットからはどんな情報からも取り込める。
だからテレビを点ける必要なんてめったに無いんだけど
今日は気まぐれの暇つぶしで久しぶりにテレビを付けて見た。

流れているのは夕方のワイドショー。
芸人やアナウンサーが面白おかしく近頃の情勢を語っていた。
どうやら最近はワイドショーに流すニュースにもインパクトが必要。
あの独裁体勢が敷かれた国の事やテロ特集にも飽きられた番組は
何もネタが無いときに、現代人の批評をしているらしい。

最近は専ら自殺が多いんですよね、なんて
何年も前から解ってることを繰り返すアナウンサーがいる。
日本の年間自殺者数は三万人を超え、自殺未遂者はその何十倍もいるらしい。
みんな何をそんなに死に急いでるんだろうな。
何か嫌な事があって死を選ぶのか、それとも、
この世界を超越するどこかを目指して死んでいくのか。

俺は毎日呆然とダラダラ生きている自分がちょっと馬鹿らしく思えた。



夕方のニュースを見てから8時間が経過した深夜。
いつも通り、箱の中で旅をしていた俺は
ある大手サイトで一つのニューストピックを見つけた。

3ヶ月程前から、全国の主要大都市ではカラスの大量の死骸が見つかっている。
最初は一日に数羽の死骸が発見されるだけだったが、
近頃では、一日のカラスの死骸発見数は100羽を超えている。
死因は全て電線等の高所から、落下したときの外傷によるもので
何れのカラスにも生前に付けられた傷等は無く、落下した原因は不明。
何者かによる猟奇殺戮なのか、新種の伝染病なのか 依然として何も解明されてはいない。
警察もこれに事件性は無いと捜査を開始していないものの
異臭等、付近住民からは苦情が殺到しているという。


大量のカラスの死骸、か。 最近、外に出てなかったからなぁ。
調度明日は買出しに外出する日だし、ちょっと中心地まで行ってみるか。
ま、カラスの死骸なんて見たかないけど、
俺も引きこもりっぱなしじゃ流石に流行に疎くなってしまうだろ。



次の日の朝。 俺は昼前に起きると、身支度を整えた。
もう冬じゃないからコートは着られないしなぁ。 マフラーも無理だろ。
色々考えた結果、俺は白いシャツに紺系ジャケットを着て、ジーパンを穿く事にした。
足元は履き潰したコンバース。バックルが付いたベルトも着けよう。

ジーンズの腰穿きが嫌いだって言う奴がいるけど、
最近ショップで見かけるジーンズって殆どが腰穿き用にデザインされてるから
腰穿きしないと変なんだよな。 ケツが余っちまう。
俺も腰穿きはあんまり好きじゃないけど、何ていうかアレだよ。ま、流行ってるしな。



久しぶりに家から出ると、もう外はポカポカ陽気の春だった。
中心地に出るとどこから沸いて出てきたのか解らない程、たくさんの人で溢れかえっていた。
あ、そういえば今日は土曜か。最悪だな。
俺はせっかくの春休み中の土日に出かけた事を後悔した。

人の多いショッピングモールは避けて、俺は中心地の裏道に抜けた。
最近の流行とは外れた、ちょっとアンダーグラウンドな店が並んでいる。
特に目的が有る訳でもなくブラブラと歩いていると、ふと目に飛び込んでくる物があった。

3メートル程の高さの電線の真下で、グッタリとした黒い物体。
ところどころヌルリとした液体が光を反射していた。血だろうか。


俺はすぐ近くにある雑貨屋の、暇そうな店員に声を掛けた。
20代前半くらいの年齢に見える店員の頭にはターバンが巻いてあって、
布の隙間から出てる明るい茶色の髪は、フワフワのパーマをかけられていた。
格好はエスニックと民族衣装の中間くらい。なんていうんだろう、このジャンル。
店の中には天然石や木製の雑貨が並んでいた。

「ね、ここカラス死んでるじゃん」

店員は不思議そうな顔をして俺の方を凝視している。
ここ、ここ、と俺がカラスの方を指差すと店員はあからさまに面倒臭そうな顔をして答えた。

「ああ、それね。2,30分前に死んだみたいだよ」

面食らわされたような俺の口からは素直に暴言が出てしまった。

「死んだみたいだよ、ってあんた、何言ってんの?」

店員は苛付いたように答えた。

「こんなの何時もの事なのよ。
 全く、いちいち通報しなきゃならないこっちの身にもなってほしいわ」


何時もの事だって…? 俺は自分の耳を疑った。
ああ、これが昨日のネットで見たやつか。カラスの大量殺戮。
でも何で? この女が? 嫌、それはないよな。


「なんでそんなに頻繁にカラスが死ぬのか、あんた知ってんのか?」

俺の口から出たのは、さっきの暴言と同様、十二分に失礼な質問だった。
しかし店員は今度は苛々する様子は無く、ニコっと笑うと俺に言った。

「面白い話してあげよっか。 アタシも暇だしね。」

俺は好奇心に掻き立てられた心をどうしようも静止する事が出来なかった。
店員に促されるまま、俺は不思議なお香の匂いのする店へと入った。

色んなアクセサリーや雑貨の並んだ店の真ん中にはテーブルセットが置かれていた。
木製のテーブルに、深い緑とカーキの中間のような、くすんだ色の布製のソファー。
俺がどうする事もなく店内を見回していると、奥から店員がティーセットを持って現れた。
透明なポットと、それとお揃いのティーカップとソーサーのセット。
店員は突っ立っている俺に、座りなよ、と言うと
自分もソファーと真向かいの木製の椅子に座って、ティーカップにお茶を注ぎ始めた。

その椅子、売り物じゃなかったのか。 俺は店員の気ままな行動にビックリした。
そんな俺の表情を読み取ったのか、店員は「いいのよ、私の店だし」と悪戯っぽく笑った。

「はいどうぞ。 ハーブティーは大丈夫よね?」

店員は俺の返事を聞く間もなく言葉を続けた。

「さっきのカラスの事だけどさ、私も気になってたのよ」

俺は不思議な味のするお茶に口を付けると、店員の話に相槌を打ち、完全に聞く体制へと入った。
話の途中で口を挟んだりするのは、フェアじゃないだろ?
店員は俺とは正反対に話す姿勢になる。自分の分まで入れたお茶には目もくれずに話しを続ける。


私ここに定休日以外は毎日通ってこうして働いているんだけど
最近は毎日ね、カラスが2,3羽この辺りで死ぬの。
時間は点でバラバラよ。 示し合わせた様子も無く、1羽ずつ死んで行く。
朝ここに来れば死んでる時もあるし、私がここにいる間に死ぬのもいる。
最初は気持ち悪くてたまらなかったんだけどね。
もう二ヶ月にもなるから、慣れちゃった。
最初は一週間に一羽程度だったから、可哀想だと思ってたんだけど
余りにも続くから気持ち悪くなっちゃって、電話で区役所に問い合わせてみたのよ。
そしたら引き取りに来る、っていうから
それからは毎回通報するようにしてたんだけど最近は数が多いでしょう。
だから一日の終わりにまとめて電話するようにしてるのよ。

店員は一気にそこまで話すと、冷めかけたハーブティーに口を付けた。
俺はタイミングを見計らって言う。

「カラスって高いところから落ちて死ぬんだよね?」

店員は俺の言葉に驚いたのか、顔を上げるなり「何で知ってるの」、と言った。
俺は深夜に見たあのニューストピックの事を手短に店員に話した。
店員は、自分のすぐ近くで起こっていた事が
深刻な社会問題になりかけているのを知らなかったみたいだ。
よく同じような光景を目にするけど、やっぱり騒動の渦中の人間はそれを知らないらしい。

自分が渦中の人だと知ってビックリしたのか、しばらく間を置いて店員が口を開いた。

「それにしても、なんでカラスが落ちるんだろうね」

俺もそれはずっと疑問に思っていた。
店員に、死んだカラスに共通点は無いのか、と訊ねると店員はまた話す姿勢になった。


共通点ねぇ、あ、そういえば、あるわよ、共通点。
私がここに居る間に死ぬカラスだけしか解らないけどね。
皆死ぬ前に一声、「カー」って鳴いてから死ぬの。
聴いてるだけだからハッキリとは解らないけど
いつも鳴き声が聞こえると、すぐ後にカラスの落ちる音がする。
不思議なもんよね、点でバラバラに死んでくのに、最期の一声が皆同じなの。
今から死ぬ、って他のカラス達に知らしめているように鳴いて、落ちる。


伏し目がちに語る店員の顔は、どこかこの世界を憂えているようだった、
今にも彼女はカラス達に共鳴して、この世界から消えてしまいそうに。



その日は彼女に別れを告げると街を少しぶらぶらしてから、自宅に帰った。
ジャケットを脱いでからエアコンのリモコンを手に取る。
昼間はあんなに暖かかったのに、夜になると急に冷え込んだみたいだった。

俺は、いつも通りソファーに座って、パソコンに向かった。
いつも聞いているポップなミュージックとは違って、
今日は以前買ったドビュッシーのピアノ全集をコンポで流す。
そしてカラスの事について、また調べた。それから、人間についても。


カラスの自殺が始まってからの、人間の自殺数も、やっぱり増えていた。
人間の方がカラスよりは圧倒的に少ないが比較するとほぼ平行のグラフが描かれる。


カラスは、自分以外の誰かを死の世界へ誘ってから死んでいたんだろう。
この詰まらない混沌の世界から脱出するために、それとも、新しい扉を開くために。
飛び降りた後に飛ぼうと思えばカラスは落下を防げたはずだ。
でもあえて、その翼を広げないのだとしたら、やっぱり後者の理由からなんだろうか。



俺もそろそろ、旅立つ時間だな―…

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  1. 1988/01/19(火) 10:06:36|
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