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夏の空、君と

プルルルルル
プルルルルル

はいもしもし
え、そうですけど…?は?
し、死んだ…? あ、あいつが?



『 夏の空、君と 』



僕の今年の夏は、そんな一本の電話から始まった。

七月の半ば、夏休みが始まって直ぐだった。
彼女が、交通事故で死んだ。
僕らの関係を知って居た彼女の母親が、電話で知らせてくれた。



君が死んだと謂う現実は、剰りにも唐突過ぎて
僕には何も、もたらさ無かった。
唯、電話を掛けても出る人が居無い、
送ったメールが返って来無い、其れだけの事だった。

彼女の御葬式には勿論参列した。
棺桶に横たわる彼女は冷たかったし、焼かれた骨は真っ白だった。
唯、其れだけの事だ。

今もひょっこり彼女は現れそうで、
待ち合わせに遅れた時の何時もの苦笑いを浮かべて
「ごめんごめん」 そう謂いながら、
此方に早足で近付いて来る彼女が眼に浮かんだ。



彼女が死んでからも、僕は以前と変わらない暮らしをして居た。
悲しみを実感する事は剰り無かった。
唯、漠然と彼女だけが居なかった。



其の日は夕立だった。
突然の通り雨に彼女と急いで雨宿りをした事を思い出した。
次から次へと落ちてくる雨粒は
彼女が僕に与えて居るのに違い無い、と思った。
あの急な夕立の日だって、僕は彼女を苦しめて居ただろう。
彼女は、結局事故で死んだものの、
何時、自殺しても可笑しく無い状態だった。
僕は其れに気付いては居たものの、気付か無いふりを決め込んで
彼女の確信に振れ無い話ばかりをして居た。
見殺しにしたも同然だった。


彼女は桃が好きだった。
食欲が無いと謂って何も口にし無い夜も
冷たい桃のゼリーだけは、何とか食べて居た。
だからうちの冷蔵庫には何時も桃のゼリーが在ったのに
消費する彼女が居無く成って仕舞った今は、
もう、其れを買い足す事すら無く成って仕舞った。


彼女はピアスが好きだった。
左耳に七個、右耳には九個。
臍にも、眉にも、彼女はピアスを開けて居た。
ウケ悪いから外すんだ、そう言って唇のピアスを外した時は
本当に名残惜しそうで、体の一部を失って仕舞う様だった。
遺体から外されたピアスと、彼女が持っていたピアスが
仏前に並べられて居た。
未だお墓に収められて居無い骨は、あの残骸達を
眺めて居るのだろうか、と、何時も御参りに行くと思った。

ある日、彼女の母親が、
このピアス、持って帰って善いよ、と僕に謂った。
此処に置いて居ても、仕方が無いし、と謂う事だった。
じゃあ頂きます、と謂うと、彼女の母親は
小さな缶に其のピアスを入れてくれた。
ボディーピアスや、フックタイプのピアス、キャッチタイプ、
色々な形のピアスが、全部で50個在った。
彼女は遺影の中からぼんやりと其れを眺めて居たのだろうか。

僕は、彼女がこんなにピアスを持って居たなんて知らなかった。
確か彼女の体には全部で18個ピアスが開いて居たから
拡張する工程で必要な分も在ったのだろうか。
其の日、僕は50個のピアスを持って家路に着いた。



八月になった。
彼女の居無い日々が半月も続いたのに
僕の方は、未だ其れを実感出来て居無かった。
自室のテーブルには、彼女の50個のピアス。
毎日ソファーに座って其れを眺めるのが日課だった。
大学受験を控えた高校生が、何をして居るんだ、と
他人から責められかね無い日常は、両親の完全な放置に拠って
剰りにも簡単に成立して居た。
級友の、僕を励ます声も、まるで水槽にでも泳いで居る様に
僕にハッキリとは届か無かった。



僕は、毎日、毎日、ピアスと彼女の写真を眺めて居た。
彼女の体には彫物が在った。
背中に、天使みたいな翼と、右肩に大きな龍。
腰には何か、アルファベットが書いて在った様に思う。
嗚呼そうだ、FOREVER、そう彫って在ったんだ。

彼女の事は今でもはっきりと思い出す事が出来る。
風に揺れる彼女の金髪。
乱れた、と謂ってそれを直す細い指。
指にきれいに収まった指輪。
何時もしていた、VivienneWestwoodのアーマーリング。
あれを彼女に贈った当時は、
彼女の細い指に、あんなに似合うなんて、思っても居無かった。
そう謂えば、彼女の母親は、何で、指輪やアクセサリーは、
仏前に置いて居無かったのだろう。そんな疑問が頭に浮かんだ。


彼女はいつも白い靴を履いて居た。
白い編上げのブーツか、ラバーソール。
黒い服を着て居る事が多かった彼女には、白い靴がよく映えて居た。
彼女は変わった服の取り合わせをして居る事も多かった。
其れでも、雑然と見え無かったのは、
彼女の色の使い方が上手いからだったのだろうか。
彼女はよく、僕の服装を指摘してくれて居た。
もうちょっとシャツの色は淡い方が良い、だとか、
靴は黒の方が良い、とか。
彼女に謂われて髪を短くした時も、周りの評判が良かった。

彼女は顔が綺麗だし、スタイルも良い。
男ウケだって、普通以上に良いと思う。
僕は別に、人以上に顔立ちが綺麗な訳では無いし
彼女のようにスタイルが良い訳でも無い。
こんな僕と、彼女が一緒に居る事が不思議で仕方無かった。
一緒に居る様に成った切欠は彼女だったと思う。
クラスでも、人にあまり懐かない彼女が、僕に懐いてきた。
周りも僕も不思議がったけど、彼女は全然気にして居無かった。
唯、居心地が良い場所に留まる猫の様に、彼女は僕の傍に居た。



彼女が死んでから一ヶ月が経とうとして居た。
もう八月も半分が過ぎて居た。
相変わらず、ピアスと彼女の写真を眺める日々は続いたけれど
僕の心境は、彼女が生きて居た時と殆ど変化して居無かった。
変わった事と謂えば、僕の一つの決心だろうか。
僕は、ピアスと、彫物を入れる決心をして居た。
彼女がよく通って居たスタジオも知ってる。
九月に成って仕舞えば学校が始まる。もう、今しか無かった。

決心を固めた僕は、一応この事を両親に話した。
うちの親は比較的理解力に長けている方だとは思うけれど
やっぱり凄い勢いで反対された。
何を考えているんだ、そんな事で将来を棒に振る気か。
散々罵声を浴びせられたけれど、僕は折れなかった。
彼女が僕の頭から離れなかった。
是以外の方法なんて思い付か無かった。
最終的に父親は僕に好きな様にしろ、と吐き捨てた。
母親は未だ何か言いたげにして居たが
父がそう謂って仕舞うのなら仕方が無い、と謂う様な表情だった。


次の日僕はスタジオに向かった。
よく遊びに行く繁華街の、小汚い雑居ビルを上った所に
そのスタジオは在った。
ドアを開くと、其処にはピアスの並んだショウケースが在った。
奥は少し広めの部屋に成って居る。
僕がドアを開いた音で店員さんが顔を出した。
彼女によく付き添って居たので、店員さんとは顔見知りだ。
店員さんは彼女の事を知ら無いのか、
あぁ、久しぶり、何?今日は一人なの?? と何時もの笑顔で聞いてきた。
僕はここ一ヶ月で彼女と自分の身に起きた事を
掻い摘んで店員さんに話し、自分が彫物とピアスをしたい理由を話した。
店員さんは散々僕を止めたが、制止に全く動じない僕に、
目を伏せて、一生背負っていくんだな、と謂った。
僕は上手く言葉を選ぶ事が出来無かったけど、確かに彼の言葉に頷いた。

其の行動から僕の決意は読み取られた様で、
店員さんは何時もの顔に戻って、仕事の話を始めた。
ピアスからにする?それともタトゥー?
僕はピアスを選んだ。痛みが小さい方から、始めたかった。
僕は小心者だ。
どのピアスにする?あの中から選べるけど、そう店員さんが謂って
ショウケースを指した時、僕は彼女のピアスを取り出した。
この中から、選びたいんだけど。
そう謂って恐る恐る店員さんに缶を差し出す。
中には、あの日彼女の母親から貰った状態のまま、ピアスが入っていた。

これだったら、どれでも出来るの?
うーん。ボディーピアスの方が、後々楽かな。
へぇ。どれがいいかな。
何個開けるの?
最終的には、左右に、七個と、九個にしたい。
彼女と一緒にするんだ?
うん、配置も、一緒にして欲しい。
わかった、アルバム取ってくるよ。

そう謂って店員さんは席を立った。
このスタジオでは、客全員の施術後の写真が入ったアルバムが在る。
其の中から店員さんは彼女の写真を探して、持って来てくれた。

ピアスは決まった?
ううん、未だ。どれが良いのかサッパリ解ら無い。
じゃあ、この一番新しい写真のと一緒にしとく?
そうしようかな。宜しくお願いします。

スタジオでは、麻酔無しの、ニードルでのピアッシングが行われた。
途中で休憩をしながらも、耳に十六個の穴が開く迄の時間は
凄く短く感じられた。痛みは、ほぼ無かった。
一度にこんなに沢山開けたんだから、彫物は次回にしましょう、
と謂う店員さんからの提案で、彫物は持ち越された。
無性に焦って居た僕は、構図だけでも相談したい、と店員さんに持ちかけ
何とか話を聞いて貰った。
参考にすると良いよ、と店員さんがさっきのアルバムを見せてくれた。
折角の好意を無駄にするのは少し躊躇ったが
僕は、一応頭の中で構図が纏まりつつ在る旨を伝えた。
拙いながらも、頭に在る構図を店員さんに説明すると
店員さんは絵柄の構図をサッと紙にスケッチしてくれた。

彼女は、肩甲骨の辺りに、天使みたいな羽根と、
右肩には睨みを利かせた大きな龍。龍と謂うよりドラゴンだろうか。
あと、腰の左側には、FOREVERという文字を入れて居た。
其れを眺めた日々を思うと、僕も彫物を入れようと思う様に成った。

入れたい絵柄は二種類。
左肩に大きな龍と、その下にトライバル。
あと、肩甲骨の間に、文字を入れようと思った。


ピアスを開けてから一週間が経った。
ケアの仕方も聞いて居たから、ホールも順調に完成へ向かって居た。
そろそろ彫物も入れようか、そう思って僕はまたあのスタジオに赴いた。

店員さんは、あれからピアスどう?と聞きながら僕を迎えてくれた。
順調だよ、なんて話しながら、彫物の話に移った。

絵柄は本当に是で良いの?
うん、それで良い。宜しくお願いします。
痛いよ?
わかってる、大丈夫。

其処まで話すと、店員さんはてきぱきと準備を始めた。
僕は上着を脱いで、椅子に座る。まずは肩に龍を入れる。
機械で少しずつ、彫っていく。黒の一色彫りにして貰った。
少しずつ、少しずつ、皮膚に色を入れていく。
青い薄めの主線が入っていく。
これが入りきると、後日、もう一度、色を入れ直すそうだ。
龍が、少しずつ姿を現していく。
痛かった。額からは冷や汗が溢れた。でも、僕は耐えた。
是は、自分自身への戒めだった。

龍の主線が完成した。
どのくらいの時間が掛かったのか、解ら無かった。
とりあえず今日はこれで止めとこう。
一度に沢山入れるのは、剰り良く無い。
そう店員さんは僕に言った。



三種類の彫物を入れるのに約一ヶ月かかった。
ピアスホールも、何個かは順調に完成した。
軟骨はもう少し時間がかかるみたいだった。

もう九月も半ばだった。学校が始まって居た。
彼女の死は当たり前の事の様に、皆の中に溶け込んで居た。




僕はと言うと、彫物が完成して、
店員さんが自分の姿を鏡に写してくれた時
思いっきり泣いて、やっと彼女の事を飲み込めた様に思う。

耳のピアスと腕の龍は、彼女がこの世界に生きた証。
トライバルは、彼女を見殺しにして来た自分への戒め。
肩甲骨の 「NEVER」 は彼女を永遠に忘れ無いと謂う決意。
未だ眉と臍にピアスが足り無いけど、是は後々足して行こうと思う。


僕は、彼女を背負って生きていく。
死んだ人を悔やんでも、何も開けない事は十分理解している。
それでも、僕は彼女を背負っていく。
いつだって彼女を忘れないし、彼女と一緒に生きていく。


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  1. 1988/01/15(金) 10:01:39|
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