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青い空

其処に在ったのは、唯々青い空と、優しい君の背中




青空




空が青かった。日差しが暖かかった。
風は心地良かったし、皆の笑い声は明るかった。




今日も私は、一人、屋上で、お昼御飯を食べている。
未だ寒さの抜け切って居無い五月の半ば、紺色のブレザーに赤いチェックのミニスカート。
ベージュのニットから覗いた、白いシャツが眩しかった。
何處にでも居る女子高生だった。
肩より長い、焦げ茶の巻き髪が、初夏の風に揺れる。
三分の二程食べたパンを口に運びかけた時、携帯電話の着信音が鳴った。
着信音はそんなに知名度は高くは無いが、一部の人間には知られているバンドの曲だった。

画面を確認する。
同じクラスの友達からだった。

今どこに居るのー?

あの、携帯電話特有の、無機質な文字が並んでいた。


私はクラスに友達が居無い訳では無かった。
深い関わりは持たない、しかし、休み時間に楽しく喋る様な子を「友達」とするなら
きっと友達は人より多い。
ただ、彼女達とも彼らとも、趣味が合わない。
学校生活を送る上では充分に関わるが、其れ以上、つまり、個人的な処で関わりたいとは思わないのだ。
だから、一人で昼食も取る。



あの日も空が青かった。
二ヶ月付き合った男に、屋上に呼び出された。
行き成り彼は気だるそうな顔で謂った。


「俺らさあ、付き合ってるんだよね?」

当たり前だ。
貴方が付き合おうと言ったんじゃないか。

「全然さぁ、俺の事、信用してないでしょ?」

彼の瞳が怒りで曇っていた。
そんな事ないよ。と私は応えた。

「そんな事有るでしょ。俺に何も話して呉れないじゃん」

そんな事ない。

「じゃあ俺よりも良い奴が居るんだね。」

なんでそうなるの!


彼は持っていたクッキーを、一袋私に渡して去って行った。
歩いていく後姿が彼の感情を物語っていた。
彼の金髪に近い茶髪が風に吹かれて、光に透け、きれいだった。
追いかける気には、なれなかった。
彼の背中を見ていると、足が動かなかった。
私は唯、彼に手渡されたクッキーの袋を握り締め、
彼が屋上のドアを開け出て行く迄、呆然と佇んだまま其れを見ていた。


私は何時もそうだった。
誰かと正面から向き合うと、何も出来なくなる。
しかもそれが大切な人なら、尚更、如何にも駄目だった。
可愛くなんか成れずに、無愛想な態度を取って仕舞う。
友達と居てもそうだった。

「一緒に居ても楽しくない。」

謂われ慣れた言葉だった。


彼と付き合っていた時は、少しは其れが和らいでいたと思って居た。
彼にも、少しずつ、心を開いて居る心算だった。
でも、まだまだ、足りなかったのだろう。その証拠に、彼は私から去った。

如何すれば、是以上人に心を開く事が出来るのだろうな。
ぼんやり、そう思った。



ぼんやりと色々な事を思い出しているうちに、また携帯電話が鳴った。
またあの子からのメールだった。
さっき返事返さなかったから怒ってるかな。
仲が良いふりをした彼女からの無機質な文字に、恐怖しか感じるものは無かった。

「早く来いっつってんだよ」

嗚呼、亦か。もう諦めに似た感情が、恐怖の後から湧いて来た。
呼ばれてる。早く行かなければ。是以上、辛い目は見たく無い。



必ず週に一回、第二特教に呼び出される。
今はもうめったに使われ無い第二特別教室棟。
叫んでも誰も助けては呉れない事は、一回目に学習した。

薄暗い教室で、何人かの女子に、罵られ、暴行を受ける。たまに男子が居る事もあった。
初めのうちはしていた抵抗も、もう無駄だと思って止めた。
一人対多数では、私が幾分か武術に富んでいない限り、勝つ確立は無いに等しい。
嵐が過ぎるのを待とう、自分にそう言い聞かせて、耐えた。


そんな日が、続いて、季節はもう梅雨に入ろうとして居た。
今日から梅雨入りだと天気予報士は謂うのに、空は、雲ひとつ無い青空だった。

其の日も昼休みにあの「攻撃」を受けた。
五時間目は、サボタージュ。私は、また一人、屋上に居た。
今日は酷かったな。ぼんやりと先刻、自分に行われた行為を思い出す。
男子が何人か入っていて、服を脱がされた。
抵抗したからか、処々ボタンが千切れたブラウスには血が付いていた。
途中で流石にヤバイと思ったのか、いつも私に攻撃してくる女子が男子を止めた。
強姦されなかっただけマシか。そう思った自分が悲しく成った。

頬に付いた血を拭う。唇が切れて、下唇からも血が出ていた。
バタリとその場に倒れこみ、空を仰ぐ。
視界に入るのは、唯々、青い、青い空だけ。


辛いな。こんな毎日は。消えてしまいたいな。こんな世界から。



「どうしたの?」

聞き覚えの有る声だった。
私に、クッキーを渡して、去って行ったあの日、
バイクで事故を起こして、死んでしまったはずの、彼だった。



振り向いたら、消えて仕舞いそうだったから、
大丈夫。と、声の方を見ないように、冷たく謂った。


後ろから腕を回され、抱きしめられた。

「帰っておいでよ」


どこに帰れっていうの、あなたはもう、居ないじゃない。
何の弁解も出来ないまま、死んでしまったじゃない。


「大丈夫だから、いっしょに、行こう」


彼はそう言って、抱きしめていた腕を緩めた。
私がずっと足元を見ていた目を上げた時には、彼は私の目前に立っていた。


いこっか。

仕方なく笑って、手を繋いで歩き出す。


ねえ、いつまでもいっしょだよね。
もう離れたりしないよ。
ねえ、ずっと、大好きだよ。
俺も、大好き。


フェンスを超えて、屋上の縁に立つ。
彼も私の左に立った。


顔を傾けて、見詰め合う。
お互い微笑んだ瞬間、私は、地面を蹴った。




後の警察による事情聴取で、目撃者の中に、

生まれたばかりの鳥のように、とても、幸せそうに
青空に吸い込まれていきました。

そう証言する人が居たそうだ。
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  1. 1988/01/14(木) 09:59:58|
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