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路地裏サーカス

ねえ其処の角を曲がってごらん。
そう、その、人通りが途絶えた、暗い、細い、路地裏。
きっと聞こえてくる、楽しげな、音楽。



『 路地裏サーカス 』



雪が、降っていた。 寒い、夜だった。
私は、一人、闇が降りて来た夜の街を歩いていた。




未だ、二時か。


毎日まいにち、獨り、夜の街を彷徨う。
繁華街の裏、この汚い路地裏。


街灯も点々としか灯っては居ない。
闇が、街の其処彼処から、顔を覗かせている。




行くべき場所が、見つからない。


私には、居場所が、無い。




別に家族が居ない訳じゃない。
家が無い訳じゃない。
親が嫌いな訳じゃない。


ただ、私には居場所が、無い。


夜、帰らなくても、家族は何も言わない。
放任主義。 そう謂って仕舞えば、そうなのだと思う。



私は毎晩まいばん、友達の家を、クラブを、遊び歩いた。
もう、二週間になる。
ありったけの着替えと、制服、下着をつめた鞄だけを持って
バイトでためたお金を切り崩して、毎日過ごした。
今日は偶々行く場所が無かった。


だから、こうして、夜の街を彷徨っている。



大きな通りは、夜中の二時だというのに、人が未だ、居る。
こんな時間に人に会うと、可也の確立で絡まれる事は目に見えていた。



私は大きな通りを外れ、路地裏へ歩いた。
暗いほうへ、暗いほうへ、深いほうへ、深いほうへ
ただ、氣の向くままに 歩いていく。



急に、道の一角が明るくなった曲がり角を見つけた。
私は不思議に思い、明るい場所に向かって、その角を曲がった。



そこには、何か不思議な照明で照らされた場所があった。
簡易ステージのようだった。
30センチ程高くなったステージが前方にあり、
其処までは低い長椅子が続いていた。
簡単な屋根が作ってあり、雪は依然降っていたけれど
ステージも椅子も濡れてはいなかった。
頭上には古ぼけた看板がかかっている。


 路 地 裏  サ ー カ ス


何だ此処? この街にサーカス?
聞いたことも無い。
しかも路地裏?お客さん居ないし・・・。



何か出てくるのだろうと思い、私は前から三列目の長椅子に座ってみた。

私が椅子に座った途端、ステージからは楽しげな音楽が響いた。
滾々と振り続ける雪の音と、自分の足音しか聞いていなかった耳には
大きすぎる音楽が鳴ったので、吃驚した。


落ち着いてステージをもう一度見直す。
女の子が登場していた。

綺麗な黒い髪を高い位置で二つに括り、毛先はカールしていた。
髪を止めてあるゴムの辺りには、右側にだけ赤い大きな花が付いていた。
クリクリした真っ黒な瞳に、長い睫。
頬は薄いピンク色で肌は透き通るくらい白かった。
黒いブラウスに、白いネクタイ、黒いコルセットを合わせていた。
スカートは黒と白の割と細めのストライプで
中にはいたパニエで思いっきり膨らませてあった。
動くと膝が見え隠れする丈の裾には、黒いレースがふんだんに縫い付けてあった。

女の子は私を見て、にこりとすると、
「今晩和、今日はよくいらっしゃいました」
と謂って左足を引き、右手でスカートの裾を掴んでぺこりと頭を下げた。
私は拍手を送った。
後ろには気配も無いし、拍手の音も、しない。
客は私だけのようだった。

「今日はお客さんが三人目。 火吹き男の、登場だよ。」


そう謂うと、ステージは暗転し女の子の姿は消えて行った。
再びステージが明るくなると、
女の子の代わりに、今度は灰色の髪をした男性がステージに登場した。

黒い燕尾服に白いシャツ、黒い蝶ネクタイをした男性は
私の姿を確認すると、西洋の男爵のようにお辞儀をした。
綺麗な顔立ちをしていた。
私は、その男性の長い手足と目鼻立ちから、ハーフなのだろうな、と思った。


「こんな時間にお一人ですか?」
耳からではなく、脳みその斜め上の辺りからその声は聞こえた。
私が何が何だかわからず戸惑っていると、また、その声は聞こえた。
「私は火吹き男です。この声は、特技みたいなものです。」
それだけ謂うと、火吹き男は
何時の間にか用意していた松明を顔に近づけた。


そのとき、顔に近づけられた松明の火が、一瞬にして消えてしまった。
消えたというよりも、火吹き男に飲み込まれた様に見えた。
松明の火が消えたのでステージは少し暗くなった。
火吹き男は大げさに、喉が詰まった様なジェスチャーをした。
「よく見ていて下さい」
また、あの声が聞こえた。

まだあのジェスチャーを続けていた火吹き男が
私を見て、動作を止め、ニヤリと笑った。

天井のほうに顔を向けると、火吹き男は、
一気に口から火を吹き出した。
男の口から出た火は二メートル程伸びて、天井まで届いてしまいそうだった。

一瞬の出来事に唖然としていると、
火吹き男は口から小さな火を幾度か吹き出し、またあの声でこう謂った。
「お嬢さん、煙草はお持ちじゃありませんか?」
生憎、私は喫煙をしないので、タバコを持っていなかった。
「残念ながら、私は煙草を吸わないのですよ」
「おや、お嬢さん、そのスカートの右ポケットにあるのは煙草では無いと?」
男が私のはいていた黒いスカートを凝視しながら謂った。
煙草なんて持っている筈が無い。
あわてて私はスカートのポケットを確認した。


驚いた事に、ポケットからは本当に煙草が出てきてしまった。
入れた覚えなんて全く無いのに。


「これも特技なんですか?」
思わず火吹き男に聞いてしまった。
「どうでしょうね」
火吹き男はまたあの奇妙な笑いを浮かべながら答えた。
「煙草頂けますか?」
「はい・・・」
「あ、此方に投げてください。箱ごと。」
私は指示された通り、ポケットから取り出したフィリップモリスを
ステージに居る火吹き男に向かって、投げた。

とそのとき、火吹き男はまた火を吹いて
私が投げたフィリップモリスの箱は、炎に包まれてしまった。
「あ。燃やしてしまいました。」
「しっかりしてくださいよ」
私は苦笑しながら火吹き男に言った。
「しかし、私は、そんなにうっかり者でもありませんよ」
と火吹き男はあの笑いを浮かべながら謂った。
男の手には、しっかりとフィリップモリスが握られていた。

確かにあの箱は、炎に包まれたはずなのに・・・?
私はまた、動揺してしまった。


火吹き男は箱から一本、煙草を取り出し、右手にもった。
そして、あたかも普通に、口から火を吹き、その煙草に火をつけた。
まだ動揺していた私は、その光景に未だ馴染めなかった。
「愛煙家なんです」
男はそう、脳みその斜め上あたりで呟いた。
ハッとステージを見ると、もう男の姿は其処には無かった。
「また会いましょう」
脳みその斜め上で、男の囁きが聞こえた。



舞台はまた暗転した。
今度は何が出てくるのだろう、そう思っていたが
出てきたのはさっきの女の子だった。

「今日の公演はこれで終わりです」




「もう、終わりなのですか?」
私は吃驚し、思わず訊いてしまった。

「はい、残念ながら、もうお見せする芸当がありません」
「そうですか。」
少し残念な気持ちになりながらも、
それでは仕方が無いと、私は座っていた長椅子を立ち上がろうとした。


「あの、これからどちらへ行かれるのですか?」
ふいに女の子が私に謂った。
咄嗟に私は自分の右腕にしていた腕時計を見た。
針は、三時の少し前を刺していた。
たまたまその日は週末だったので、朝学校に行く必要がなかった。
もう夜中の三時となれば、今から人の家に上がりこむ訳にもいかない。


「何處に行きましょうかね。」
自分でも意識しないうちに、声のトーンが一段下がってしまった。
「あの、宜しければ、うちへいらっしゃいませんか?」
女の子が何故か申し訳無さそうな顔で続けた。
「これで、もう公演は終わりですし、私も家に帰ろうと思いまして・・・」

夜中の三時過ぎに自分の家に初対面の人間を誘うなんて・・・。
どういう暮らしをしている子なのだろうか。
でも、別段危ないところも無さそうだし、ついて行くのも面白いか。


「もうこんな時間ですし、お邪魔するとご迷惑になりませんか?」
「いいえ、是非、いらっしゃってください」
「じゃあ、お言葉に甘えさせて頂きます」


私がそう謂ったとたん、ステージを照らしていた照明は暗くなり
オルゴールのような音色で鳴っていた音楽も止まった。
さっきまでは明らかに異空間だった場所は、いつの間にか唯の路地裏に戻っていた。


夜は未だ明けない。

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  1. 1988/01/09(土) 09:41:40|
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