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ホワイトゴールド、0.41カラット

毎日の世界はキラキラと輝いているはずだけれど
急に、何かが欠落したように感じることはありませんか?
自分の腕が、足が、目が、自分のものでなくなるような
透明な膜に包まれた違う世界に落ちてしまったような、
その別な世界から、日常を見つめているような感覚に陥ることはありませんか?

少しだけ、私の過去の話をさせてください。



 『 ホワイトゴールド、0.41カラット 』





私が彼に手を引かれて訪れたのは、
とある老舗メーカーであるジュエリーショップでした。
照明の落とされた、落ち着いていて重厚な雰囲気の漂う店内では
透明な硝子ケースに収められた高価なアクセサリーが
局部的な照明を受けて、キラキラと輝いていました。

硝子ケースの向こう側からは、緊張した面持ちなカスタマーを見定めるように
揃いのセットアップスーツを着た、整った容姿の店員が顔を覗かせています。

着用していた黒いBURBERRYのトレンチコートはフォーマルではあるけれど
その下に併せたスカートが少しカジュアルっぽくも見えるであろう私は
重苦しくも幸せな雰囲気に満たされた店内には全くそぐわないような気がしました。
しかし、一緒にいた彼は、普段とは全く変わらない
別珍のジャケットにダメージジーンズというラフな格好をしているにも関わらず
緊張した様子もなく手馴れた様子で商品に目を落としています。

目的も告げられず訪れたアクセサリーショップで、彼は黙々と商品を物色していきました。
私は、どうして良いのか分からず繋いだ手にぎゅっと力を込めました。
それに気付いたのか、彼は硝子ケースから目を上げ、私の顔を不思議そうに見ました。
そして私が余程、強張った表情をしていたのか
心配するように繋いだ手とは反対の手で私の頭をぽんぽんと叩き、
困ったように微笑みました。


まだ、この日のことは私の脳に鮮明に残っています。
あのとき見たあなたの困ったような笑顔も、頭に優しく触れた手のひらも、
繋いだ手の体温さえ、まだ鮮明に、覚えています。


硝子ケースを挟んだ向こう側から店員が私たちに声を掛けてきました。
彼は一つの指輪を硝子ケースの上から指差すと「これ、試着できますか?」と囁きました。
彼が声を発しても、静かな店内は以前として静寂を保ったままです。
店員はサイズを確かめると硝子ケースからその指輪を取り出し
静かに私たちの前に置きました。

小さなダイヤが、中央から端に進むと同時に少しずつ小さくなるように七つ並べられた
そのホワイトゴールドの指輪は店内の照明を受け一層高価そうに見えました。
私がその指輪に見とれていると、彼が、
私の、手を繋いでいない左手を掴み、硝子ケースの上に乗せました。
指先を彩る淡いピンク色のマニキュアのチープさに、
ふと我に返った私はその指輪を右手で取り、ゆっくりと薬指に填めます。
サイズはピッタリでしたが、お世辞にもキレイだとはいえない、
手入れも念入りにされてはいない指先には、その指輪は少し浮いて見えました。

しかし彼は「やっぱ似合うじゃん」と言い、店員に会計を頼んでしまいました。
店員は私のチープな指先から高価な指輪を手馴れた様子で抜き取り
「プレゼントで宜しいですよね」と微笑むとさっさと奥へ引っ込んでしまいました。
彼はまだ状況の飲み込めていない私を見て、悪戯っぽく笑うと
また私の頭をぽんぽんと二度、優しく叩きました。


あの時あなたは、一体何を考え想っていたのですか。
今となってはあなたの思惑など計り知ることは出来ないのです。
なぜ、あなたは、突然高価な指輪などプレゼントしてくれたのですか。
BURBERRYがお洋服を作っていることすら、知っていたのか知らなかったのか曖昧で
私の服の趣味になど興味を示さなかったあなたが
何故、プレゼントにわざわざこの老舗メーカーのアクセサリーを選んだのですか。


あのアクセサリーショップを訪れた日から、早くも三ヶ月が経ち、
例年より一層冷え込んだ冬も終わろうとしていました。
私はいつも通り大学の講義を終え、いつも通り電車に乗り
最寄駅からは歩いて家に帰っていました。
その日まだ少し外は肌寒く、吸い込む外気が気管に冷たかったのを覚えています。
家に帰れば一緒に暮らすあなたの仕事からの帰りを待つ間、夕飯を作るので
今夜のメニューは何にしようかと私は思いを巡らせていました。

どんよりと雲に覆われた、白い空を見上げていると
ひらひらと一粒の雪が私の目前を滑り落ちていきました。
それと同時に頬に痛いような冷たさを感じました。
薄手のショート丈のトレンチコートと膝までのスカートにブーツを履いていたので
自分に降る冷たさにそれまでは気付かなかったのでしょう。
もう春になろうという、この季節には珍しい雪でした。
久しぶりに見た雪に驚きを感じながらも、
私は往年の冬の定番ともされているヒットソングを思い出していました。
しかし、早く家に帰ってしまわなければ雪が本降りになれば濡れてしまうと思い
私は足取りを早く、家に向かって歩いていました。

アパートメントのロビーに着くと、いつも通り郵便受けをチェックします。
何通かの手紙やダイレクトメールを取り出すと、その下には無用心にも鍵が入っていました。
キーケースや、キーホルダーはなく、ただ金属の鍵でした。
私は一目でそれが何の鍵なのかを理解し、部屋へと急ぎました。
エレベーターを待っている時間も惜しく感じられて、外階段を一気に駆け上がります。
静かに雪の降る夕方にブーツのヒールを踏み鳴らす音がカンカンカンと響き渡りました。
頭の中には、妙な胸騒ぎと一緒に、まだあのヒットソングが鳴り響いていました。

肩に掛けた鞄から、何時の日にか、彼に貰ったキーケースを取り出し
その中から急いで見慣れた家の鍵を取り出します。
何故か思った以上に手が震えて、鍵穴に入れ、回すまで時間が掛かってしまいました。
鍵を開けるとその手でバータイプのドアノブを下ろし、勢い良くドアを引きました。

玄関には、朝にはたくさん散乱していたはずの靴が妙にスッキリ並べられていました。
しかし目に入るのは女物のブーツやパンプスだけで、彼が気に入って履いていた
converseのスニーカーや、guessのローファーは見当たりませんでした。
急に胸騒ぎは大きくなり、私は急いでシューズクローゼットを開けてみました。
整然と並べられていた靴はほぼ半分になり、男物の靴だけが消えていました。

私は胸騒ぎすらも消えてしまった胸を必死に押さえ、靴を脱いで室内へと入ります。
キッチンでは、彼がよく使っていたマグカップや食器が一式消えていました。
違和感を感じて近づいたCDラックは、彼のものであるCDがすべて無くなっていました。
バスルームからも彼の歯ブラシや洗面道具がなくなっています。

私は、すべて奪われたような気持ちで、リビングのソファにへたり込んでしまいました。
彼がこの部屋には絶対に白いソファだと言って聞かず、購入した座り心地の良いソファです。
すっかり物の減ってしまった室内は妙にスッキリとしていて
頭の中には、あのヒットソングだけが鳴り響いていました。


郵便受けに入っていたのは、見慣れたこの部屋の鍵でした。
部屋に入ると、すべてのものがなくなっていました。


涙さえ出ずに、私はしばらく呆然としていました。
少し気分も落ち着いたので、紅茶でも飲もうとダイニングへ向かうと
テーブルの上には青緑色の紙袋が置かれていました。
三ヶ月前に見た、あのジュエリーショップの紙袋でした。
恐る恐るあけてみると、白いリボンの掛かった、白い箱が入っています。
リボンを解き箱を開けてみると、中には
三ヶ月前に貰った指輪と揃いのデザインのブレスレットが入っていました。
右手で掬い上げるとダイヤモンドが薄暗くなってしまった部屋にキラキラと光りました。

よく見ると、テーブルには白い便箋が一枚置いてありました。
私は急いでダイニングの照明を点けその便箋に目を通しました。
そこに書かれていたのは、間違いなくあなたの文字で、間違いなくあなたの言葉でした。



 今までありがとう、一年間、楽しかったよ。



今もあなたはどこかで元気に暮らしているのでしょうか。
あれから半年が経ちますね。今はちょうど九月の半ばで、暑さの盛りです。
私はまだ、妙にスッキリしたこの部屋に取り残されたままで居ます。
平凡だけれどキラキラと輝いていた世界はあなたを失くし、
毎日は詰まらなくなってしまいました。
もうすぐ私はこの大学を卒業し、あなたのように社会に出ます。
それでもまだ、この指輪も、ブレスレットも、棄てられないのですよ。
あなたの面影はまだ、私の生活に頑丈に居座ったまま、何一つ消えてはくれません。

いつか、すべて忘れて笑える日が来たら、私は私になれるでしょうか。
この分離したような腕や足を引きずって毎日歩くのは、正直もう、疲れてしまいました。
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  1. 2006/01/02(月) 20:27:20|
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